WordCamp スピーカー選考の重要性
WordCamp はコミュニティづくりの大切な要素です。しばしば、新メンバーが交流に加わったり、活発にプロジェクトに参加したりするスタート地点となります。登壇者の選択は、参加者や、ゆくゆくは登壇者になる参加者が、イベントに対してどのような印象を持つかに影響を与えます。もし、登壇者や参加者が他のメンバーに対して少数派だったり、場違いに感じたら、イベントに関わる意欲が低くなり、来年はもう参加をやめようと思うかもしれません。
WordCamp スピーカー選考は重要です。イベントの目玉のひとつであり、人々が特に注目し、意見を述べる要素でもあります。
登壇者選びの際に考慮すべきことは様々です。
- 魅力的でまとまったイベントになるよう、トピックを魅力的に組み合わせる
- 大勢を惹きつけ、チケット購入に繋がるようなトピックとスピーカー選び
- 地元スピーカーと遠方からのスピーカーの割合
- 男性スピーカーと、女性 / ノンバイナリー / 他のジェンダーの割合
- 開催地域の実際の人口構成と比べる。特に少数グループをしっかり含めましょう。例えば、人種、民族、セクシャリティ、身体的能力、神経的能力、文化、階級、カースト、国籍、年齢など
- フレッシュな新人登壇者と、経験豊富な登壇者とのバランス
- 開催地域の WordCamp 参加者層を反映する: 開発者、デザイナー、実装者、ユーザー、使用する言語、異なる地域からの参加者など
名前だけでの選考は、思わぬ問題の原因に
インクルーシブで、公平なスピーカー選考プロセスが重要です。
登壇者の知名度や評判をもとに選ぶと、多様性が優先されず、新たな声 (よく代表されているグループや代表されていないグループの人々) が含まれなくなります。これにより、知名度の低い新たなスピーカーにとって、公平なチャンスが奪われてしまいます。
同じような意見や視点を繰り返し登場させてしまうと、イベントは単調になり、新しい洞察やアプローチに欠け、参加者を適切に代表するものではなくなってしまいます。
WordCampsでは、多様なスピーカー (地域の人口統計に応じて異なる) を選ぶことで、アイデアや専門知識、経験の豊かな組み合わせを提供することができます。これにより、活気に満ちたイベントが創り出されます。
参加者にとって、自分と同じような人々が登壇しているのを見ると、イベント終了時にはより「含まれた」気持ちになり、インスピレーションを受け、励まされるものです。
完全な匿名選考方式も理想的とは限らない
完全な匿名選考方式とは、スピーカー応募者のプロフィールを、選考プロセス全体に渡って隠すことです。この方法では、主に応募されたタイトルと内容に注目します。
完全匿名方式では、多様性はまったく考慮されません。多様性を優先するには、主催者はラインナップが多様な個人で構成されるよう、特別に選択しなければなりません。匿名方式はこれを不可能にします。
匿名というと公平なように聞こえますが、完全な匿名となると、以下のような他の偏よりが生じてしまいます。
WordCamp の世界で長年活動してきた経験豊富なスピーカーは、良い応募文の書き方をすでに知っているため、応募内容だけを選考基準にすると選出される可能性が高くなります。初めての応募であれば、応募内容がうまくなく、選ばれにくいでしょう。
対象の WordCamp で使用される言語が第一言語ではない人や、文章を書くことに障害を持つ人について考慮できなくなってしまいます。審査員にとっては注意不足な人に見えてしまい、却下される可能性があります。しかし、文章を書く能力と話す能力はイコールではありません。こうした応募者は、イベントにとって価値ある視点をもたらす可能性があります。
スピーカーの選考方法が重要な理由
- 声を混ぜる — 経験豊富なスピーカーと新人スピーカー、多数派グループと少数派グループ、異なるアイデンティティや文化を組み合わせれば、より良く興味深い WordCamp を作り上げられます
- 少数派の声を取り入れることで、次のような魅力的なラインナップが実現します。(1) 完全に新しいトピック (2) 今までに繰り返し語られたトピックでも、全く新しい視点から取り上げることができます。そのトピックの上級者にとっても新しい学びがある場合があります。
- 少数派と多数派の両方にとって、登壇者が多様かどうかによって、イベントに参加するかどうかを決める理由になります。多様ではないラインナップはチケットの販売にとって痛手です。
- 自分と同じ立場の人がステージに立つと聞くと、より参加に興味が湧くものです。(少数派の登壇者かどうかは必ずしも目に見えませんが、見えざるマイノリティであっても自分を代表していると感じることに寄与することがあります)。参加者が増えれば、チケットの販売数も伸びます。
- ステージで誰が代表するかは、コミュニティに影響を与えます。地元のコミュニティで多様性を促進したいなら、ステージ上にも多様性を反映させましょう。
- 多様な人に Meetup や WordCamp の実行委員になってもらいたいですよね。ステージで登壇する人は、次の実行委員やリーダーを頼まれやすい、または次の役割に挑戦しやすい人たちです。これは、そのスピーカーが代表するグループと同じグループに属する参加者にとっても言えることです。
- スピーカーラインナップが多様でなかったら、コミュニティが気づき、排他性を公に指摘することもあります。
- 多様性のあるスピーカーラインナップに理由は不要です。それ自体が正しいことなのです。
理想的なスピーカー選考方法
選考を始める前に
- Building A Diverse Speaker Roster を読んで、少数派に属する人からの応募を増やす方法を学びましょう。これはとても大切なステップです。
- スピーカー選考はできるだけ早く行うよう計画しましょう。少数派グループの人々は、勤め先やスポンサーから旅費の補助を受けたり、旅行資金を調達するために事前に計画する時間が必要になる場合があります。また、スピーカーとして選ばれたことを遅く知らされると、一部の人々が応募する意欲を失うことにもつながる可能性があります。
- WordCamp 参加者のペルソナを明確にしましょう。開発者、デザイナー、実装者、ユーザー、話される言語、異なる地域からの参加者などを具体的に考えます。
- スピーカーラインナップに、各少数派グループの比率を設定しましょう。例:
- 50% は女性 / ノンバイナリー / その他のジェンダーのスピーカーにする
- 60% は地元のスピーカーにする
- 60% は特定の言語を話すスピーカーにする
などです。
可能であれば、多様なスピーカーのアウトリーチチームを創設しましょう。多様性アウトリーチチームは、少数派のグループと繋がるのに役立ち、潜在的なスピーカー応募者が自身の存在を評価され、肩書しか見られていないような気分にならないようにします。
アウトリーチにどのような言葉を使うか検討しましょう。常に、対象者がイベントにもたらす価値を、スキルでも経験でも言葉にするところから始めましょう。多様性を優先すると表明することに、躊躇しないでください。なぜその人たちがイベントにとって重要なのか伝えることもお忘れなく。
アウトリーチは、スピーカー募集が始まってすぐ開始しましょう。これは積極的なプロセスですから、少数派グループからの連絡を指を咥えて待っているわけにはいきません。ただし、あたかも応募すれば選ばれるような伝え方はやめましょう。選ばれるはずだと思ったのに選ばれないのは、よりしんどいものです。
スピーカー選考プロセス
この方法は何ラウンドかあります。最低でも「匿名」ラウンドを1回、「名前あり」ラウンドを1回やってください。こうすれば、コンテンツと多様性の両方のゴールを達成できます。
名前なしラウンド
- スピーカー応募内容から、名前と所属先を削除します。
- 応募内容に点数をつけます。
- 簡単に評価する場合:
- スピーカー選考チームの各メンバーが、トピックと概要をもとに1から10で採点します。どの応募内容が最も普遍的に関心が高いかを知ることが目的となります。
- 項目別に評価する場合:
- 関連性 (1〜5点): 応募トピックの、WordPress コミュニティとイベントテーマとの関連度合いを評価します。参加者が興味を持ち、有益な内容かどうかを考慮します。
- 独自性 (1〜5点): 応募内容が、トピックに対して独自の視点や新鮮な洞察を含んでいるかどうかを評価します。これまでの WordCamp で取り上げられていない、新しい要素を提供しているかどうかを考慮します。
- わかりやすさ (1〜5点): 応募内容がわかりやすく書かれ、体系的に整理されているかどうかを評価します。スピーカーが何について話し、参加者が何を学ぶことができるのかがはっきり説明されているかどうかを考慮します。
- 登壇者の知識 (1〜5点): 応募内容から、応募者がトピックについて十分に理解しているかどうかを評価します。しっかり調査されているかどうか、ふさわしい論点を提供しているかどうかを考慮します。
- 参加者とのつながり (1〜5): 応募内容に、参加者を引き込む要素 (インタラクティブな活動、実例、魅力的な物語など) が含まれているかどうかを評価します。
- 各応募内容を、これらの5つの観点で、複数の審査員によって採点します。審査員全員のスコアを平均し、各応募の最終点をつけます。最も高い点数を獲得した応募内容が、選考プロセスの次のラウンドに進みます。
- 簡単に評価する場合:
- ランキングのコピーを保存します
名前ありラウンド
- 開催地域の人口構成と、イベントの登壇者、実行委員、参加者の構成を比較してみましょう。スピーカーの顔ぶれに加えたい少数派グループを想像してみましょう (例:性別、人種、民族、セクシュアリティ、身体能力、神経能力、文化、階級、カースト、国、年齢、話される言語、異なる地域からの参加者など)
- スピーカー応募者の名前と所属企業を含めた情報で、さらに1ラウンド行いましょう。
- プログラムを多様性の観点で見直しましょう:
- 地元のスピーカーと遠方からのスピーカー
- 新人スピーカーと経験豊富なスピーカー
- 男性スピーカーと女性 / ノンバイナリー / その他のジェンダー
- 先のステップであらかじめ定義しておいた少数派と多数派
最終ラウンド
- 参加者のペルソナ全員が興味を持てるトピックがあり、コミュニティを代表できるものであるかどうか確かめましょう。
- コンテンツと多様性、両方のゴールを達成しているかどうか、再度内容を見直す必要があるかどうか確認しましょう。
選考の過程で、「誰にでもシェアする価値のある話がある」ことを何度もリマインドしましょう。ゴールは、有名人を取り揃えることではありません。有名人がいてもいいですが、それだけが優先事項ではありません。すべての声が含まれることを目指しましょう。
スピーカー選考後
- スピーカーラインナップを公表する前に、全員が当選または落選のメールを受け取っているか確かめましょう。直接連絡があるより先に、オンラインで結果を知らされるのは望ましくありません。
- スピーカーアウトリーチの流れで、多様性を積極的に求めていることを公に発表していた場合、少数グループの人々に与えるネガティブな影響について考慮してください。そのため、落選のメールを送る際には、決定の理由を明確に説明し、次のような励ましの言葉も添えることが重要です。
- このトピックには多くの応募があり、1つしか受け入れることができませんでした。ぜひ、このトピックで私たちのミートアップで話していただければと思います。(具体的な詳細と手続きについて直接提供する)
- 今年のプログラムにはこのトピックは合いませんでしたが、とても魅力的で、来年も応募していただければと思います。
- トピックは素晴らしかったのですが、WordCampのガイドライン(例:広告不可)に準拠していませんでした。
落選した応募者に理由を聞かれたら、必ず返信して説明するようにしましょう。
- ラインナップを複数回に分けて公式発表するときは、少数グループのスピーカーをまんべんなく配置するようにしてください。すべてを最後にまとめて配置すると、発表の初期段階で正確な割合を伝えることが難しくなります。
できれば、すべてのスピーカーを一度に発表してください。もし最初の発表がラインナップの多様性を適切に反映していない場合、最初の発表は保留する方が良いです。
すべてのスピーカーラインナップを公開することで、思慮深く均等なバッチで社会的な発表を行うことができるだけでなく、多様性と包括性への配慮を透明に表示する方法となります。
このページの文章は、WordCamp Planning の「WordCamp Speaker Selection」に加筆・修正したものです。
日本語訳 2023年7月6日